建築巡りの備忘録

最近始めた建築巡り。見学して気付いたことの覚え書き。

石川県立伝統産業工芸館 上質な空間で工芸品を眺め、現代アートを思う

設計: 谷口吉郎

訪問日:2018年8月8日(水)

 

兼六園を歩き回って、桂坂口とは反対側の小立野口までやってくると、モダンな建物が見えてきました。「石川県立伝統産業工芸館(旧石川県立美術館)」です。設計は、モダニズムを語る上での重要人物・谷口吉郎谷口吉生の父であります。金沢市内の九谷焼の窯元生まれらしく、当館設計者として納得の人物ですね。

 

まず、外観は、白を基調とした、おとなしめの外観。兼六園に隣接しているので、建築を主張させるのは避けたのだと思われます。

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やや深めの庇や白のタイル壁、奥の窓の格子は、どことなく障子や日本建築を連想させます。日本の伝統建築の要素を用いつつ、周囲になじむモダニズム建築という、谷口吉郎の特徴がよく表れています。ピロティもこの建築の特徴です。

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エントランス。夏休みということもあって、子供向けのイベントが開催中でした。左奥は中庭。床の石材の仕上げが、屋外との連続性を感じさせます。

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前田家の家紋「剣梅輪内」のデザインの照明。

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開放的なエントランスホールの吹き抜けと階段。

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寸法は、蹴上15㎝、踏幅30㎝でした。

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2階平面図。L字型の建物で中庭があります。

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第一展示室。黒を基調に落ち着いた空間で、谷口吉生の美術館に通じるものを感じますね。じっくり展示品と向き合うことができます。展示品は、九谷焼加賀友禅、輪島塗、山中漆器、金沢箔などなど、どれも息をのむ美しさがありました。特に輪島塗のお皿は初めて目の前で見ましたが感動しましたね。こうしてみると、石川は本当に伝統工芸が多く、だからこそ美術館など文化施設が数多く建てられ、文化都市としての地位を築いているように思います。

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第三展示室。イベントに合わせ、ゆかいな展示室に。美術を高尚なものと考える人からは批判されそうですが、これで子供が来てくれるなら良いんじゃないかと思います。全体的に、金沢は美術を身近なものとして捉え、子供に触れてほしいんだと感じます。金沢の未来を見据えた素晴らしい考えだと思いますね。

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ハイサイドライトに明るい木目の壁面。開放感を感じます。

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順路の最後、一階に降りる階段に展示されている「兼六園」の扁額。迫力がありました。

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1959年竣工と古いので、目新しさはないですが、偉大な地元建築家による味わい深い建築で、来てよかったですね。

 

ところで、工芸品を眺めることにより、現代アートの捉え方に対して思いついたことがありました。「現代アートは訳が分からない。おもしろくない。」という印象が先走りしているように思われる今日ですが、工芸品を見て、「なぜこの模様になるのか理解できない。おもしろくない。」という人はおらず、皆「きれい~!」と喜んでいたのです。つまり、意味や工法だったりを考えず、ただただその美しさに感動していたわけです。現代アートだってそれでいいではないでしょうか?

先人や職人の知恵・技が、我々一般人には到底解せぬ離れ業であるのと同様、偉大なアーティストの頭の中なんて分かりっこないのですから。

「何故か分からないけど、この作品は好き!」「これはめっちゃきれいやな~」

まずはそうやって現代アートに触れて楽しんでみよう!と考え、少し気が楽になった見学でした。

 

続いては、もう一度兼六園内を抜け、21美に向かいます。