建築巡りの備忘録

最近始めた建築巡り。見学して気付いたことの覚え書き。

金沢ビーンズ ロードサイド建築に対する切り込み隊長

設計:迫慶一郎

訪問日:2018年8月8日(水)

 

郊外まで車を走らせ、「金沢ビーンズ」へ。幹線道路沿いに建つ本屋です。


名前の通り、豆のような楕円の平面が特徴で、蔵書はロードサイド型書店では日本最大級の80万冊に登るそうです。


「玉川図書館」とは対照的に、本棚で囲まれた壁面ですが、曲面になっていることもあって圧迫感は感じません。本によって閉じられた世界を切れ目なくぐるぐる歩き回ることができます。

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3階の漫画売り場。万引き防止のため、放射状のレイアウトで見通しがよくなっています。

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2階。インデックスは、大きな文字やカラフルな色を用いており、遠くからでも目的のコーナーをすぐに見つけることができます。そして、そこに近づくとさらに詳しくカテゴリーが書かれており、情報を二層構造で明快に伝えています。トイレなどのサインもしっかりデザインされており、利用者のことをよく考えて設計しているなと感じました。

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レジや検索コーナーの机なども豆型で遊び心があります。

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ソファや窓際の立ち読み台など、くつろげる場所が至る所に作られており、本屋としてなかなか画期的であるとともに、心地よい空間になっていると思いました。実際、見学中ひっきりなしにお客さんが出入りしていました。


うねった曲面が印象的な外観。三階建てなんですが、窓をランダムに配置することでそれが分かりにくくなっています。

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実際は立ち読み台がほとんど利用されてなかったり (なんとなくあの壁際は居座るよりも、ぐるぐると回遊する場所な気がします)、予算も限られていたでしょうから、上手くいかなかったところもあるんだろうなと感じましたが、空間の在り方やサイン計画など、実験的要素の強い建築な気がします。

 

ともあれ、画一的でおもしろくないハコモノが並ぶロードサイドに一石を投じる、そういう意味で価値ある建築でした。

 

その後、すぐ近くの「石川県庁舎(山下設計)」に寄り道。県民に開かれた「森の中の県庁」を目指しているようで、建物周囲には「県民の杜」という緑地帯がある他、19階は「展望ロビー」として開放されています。周りに高層ビルがないので、東西南北どの方向も遠くまで見通せます。晴れた日には白山や立山連峰も見えるそうです。日が沈んでから来たので、夜景が綺麗でした。


さて、楽しみの一つ、夜ご飯は「金沢おでん」にしました。繁華街の片町交差点に位置する、赤玉本店へ行ってきました。ちなみに、金沢は人口に対するおでん屋の数が全国一位で、「金沢おでん」に明確な定義はないものの、京風の薄味で上品なうまみがあるのが特徴だそう。外でおでんを食べるのは人生初です。

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赤玉名物の牛すじ煮込みとおでん。車麩や赤巻など、普段見慣れないメニューもありました。だしに驚くほど奥深さがあり、外で食べるおでんはこんなに美味いのかと感激しました。さて、お会計にて¥2500の文字を見た時、おでんってこんなに高いの!?と驚くとともに、美味しさのあまりついつい食べ過ぎたことを悔やむのでした。ま、本当に美味しかったので良かったです。蟹が食べれる冬に、また来たいと思います。

 

香林坊と武蔵ヶ辻の間にあるカプセルホテルに向かう途中に撮影した片町交差点。京都の四条河原町にそっくりな雰囲気でした。しかも、すぐ近くを犀川が流れており、これも京都の河原町と同じ。道の狭さ、タクシーやバスの多さなど、金沢は本当に京都に似ていますね。

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金沢市立玉川図書館 感動!最初で最後の親子作品

設計: 谷口吉郎・吉生

訪問日:2018年8月8日(水)


金沢駅の次は、「金沢市立玉川図書館」へ。設計は谷口吉生。金沢出身ながら、金沢に彼の作品は「鈴木大拙館」ができるまで、永らくこの図書館唯一でした。そして、注目すべきは最初で最後の谷口吉郎・吉生の親子共同作品であること。谷口吉郎は、当館の監修と別館(近世史料館)の改築を担当しています。彼は、この建築の竣工を待たずして亡くなり、これが生涯最後の仕事となったそうです。


さて、建築を見学してみて、「明治建築との融合」「壁面の対比」「屋外との連続性・開放感」がポイントだと思いました。


まずは外観。コールテン鋼の壁は落ち着いた印象。隣地は玉川公園として整備されており、その緑地や、道路の並木によく溶け込んでいます。

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この図書館は、旧専売公社でレンガ造りの近世史料館に併設する形で新築されており、明治建築との融合が一つの見どころ。煉瓦と鋼の壁は対比的ですが、お互いを引き立て合っているように思えます。ちなみに、この近世史料館は煉瓦の外壁を残しつつ、内部がRC造に改修されていました。

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中庭。近世史料館の方から撮影。外部に対して閉鎖的な表現。

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逆に中庭から近世史料館の方を向いて撮影。内側の壁は煉瓦で、壁面の表と裏で対比になっています。外側から見ると近世資料館に対立的でしたが、内側から見ると近世史料館とよく融合しています。

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フロアマップ。中庭により管理棟と開架書庫が完全に分かれる構成。

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近世史料館とは反対側の中庭。銘板があります。いずれの中庭も、丸く穴があいた緑色の鉄の梁が印象的。

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公開ホール(開架書庫)。中庭に向いた大きなガラスのカーテンウォール、広々とした高い天井などにより、明るく開放感溢れる空間になっています。また、緑の鉄の梁は、中庭から公開ホールまでひと続きになっており、屋外・屋内の連続性を感じさせます。カーテンウォールも曲面になっていることで、より圧迫感がなくなり、中庭と室内の境界が弱くなっています。

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カーテンウォールはグリーンカーテンにされていました。環境を意識した取り組みでよいと思うんですが、できる限り中庭と公開ホールの境目をなくしたい設計者側からすると、付けてほしくないのかもしれません。

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ここでも壁面の裏表の対比が用いられています。こちらは、管理棟から撮った写真。壁は白く、屋内に閉じられた印象。

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一方、こちらは公開ホールから管理棟方向を撮影したもの。壁は煉瓦で、あたかも屋外にいるよう。

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管理棟2階から公開ホールに伸びるブリッジ。公開ホールは2階分吹き抜けになっています。

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管理棟の廊下。左の壁の裏側に事務室や学習室が納められています。廊下は読書スペースとなっており、吹き抜けにより広々とした空間になっています。事務的なものは裏側に隠し、利用者のためのスペースを明るく広々としたものにすることを徹底しています。なお、2階には廊下を見下ろす、三角形に突き出た展望スペース?があり、「鈴木大拙館」のクスノキを眺めるところを思い出させます。谷口吉生の癖でしょうか。

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廊下の読書スペース。中庭の植木との連続性を感じるソファ。人々が使うところは屋外のような開放感ある空間であってほしいという設計の意図が表れています。

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扉の取手。ガラスと鉄だけでできたシンプルなデザイン。ちなみに、この図書館には入口が5個(一つは締切になっていました)もあり、あらゆるところから出入りすることができ、兼六園や21美を思い出させます。

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このように当館は、設計の意図と表現が非常に明快な建築で、勉強になった見学でした。何より、谷口吉郎・吉生の父子共同作品ということで感慨深いものがありました。

 
また、訪れたのは夏休みの平日ですが、多くの学生が読書スペースや学習室で勉強していたり、新聞や本を読みに来ている市民も多く、「北陸の人々は勉強熱心だなー」と感激しました。「鶏が先か、卵が先か」のような話ですが、素晴らしい公共施設があるから皆が利用して市民の学習意識が高まり、そのようにして教育水準が高くなっているからこそ優れた公共施設が整備されるのだと思いました。都市計画として好循環になっており、完全に成功しています。

 
さらに、この図書館の隣には、「玉川こども図書館」も併設されており、絵本を読んだり、勉強したりしている親子の来館者が目立ちました。また、隣の玉川公園で遊ぶ子供の姿もあり、金沢には子供の遊び場・学び場が整備されていて、街中に子供の居場所があるなと感じるとともに、金沢の未来は明るいなと羨ましくなりました。

金沢駅東広場 鼓門・もてなしドーム 金沢の庇文化を象徴している!?

設計: 白江龍三+トデックほか

訪問日:2018年8月8日(水)

 

昼食を食べに、金沢駅まで戻ってきました。金沢百番街の「8番らーめん」へ。本店は石川県加賀市国道8号線沿いで、北陸三県以外にまで進出している、北陸最強のラーメンチェーンであります。味は味噌にしましたが、たっぷりの野菜とちゃんぽんのような麺が特徴で、唯一無二の味。ラーメンとして良い出来なのかは分かりませんが、「8番らーめん」という食べ物として病みつきになるおいしさがありました。関西における天一みたいな感じですね。きっとまた時々食べたくなるのだろうなー。

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ラーメンはさておき、金沢駅といえば「鼓門・もてなしドーム」。北陸新幹線開業の際さんざんメディアで紹介されたのもあって、金沢の新シンボルとなりつつある気がします。

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力強さを感じさせる柱。その中に配管などが通されており、機能とデザインを上手く両立させています。ドームに降った雨水を再利用したり、バス停の屋根には太陽光パネルが設置されるなど、伝統的な見た目に反し、ハイテクな現代建築です。

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ガラスとアルミ合金でできた「もてなしドーム」。その大きさと迫力に圧倒されます。案内板には「雨や雪の多い金沢を訪れた人々に、そっと傘を差しだす金沢人のやさしさ、もてなしの心を表現するもの」と説明されていました。金沢駅から張り出しているので、広義の庇と捉えていいのかもしれません。トラスがひたすら続く構造的なデザインで、構造を学ぶ建築学生にはアツい建造物。

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地下に続く大階段と円形の吹き抜け。地下広場はイベントスペースとして使われているようです。滝があります。

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憩いの場となっている親水空間。駅前正面をロータリーにせず、このように歩行者に開放しているのが素晴らしいなと思います。また、犀川浅野川に挟まれた河岸段丘に位置する金沢は、湧水が豊富で用水なども多く、水の表現が豊かに感じます。「歩行空間」「中間領域(庇)」の豊かさも金沢らしさと言えるでしょう。

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とにかく巨大で豪華な新・金沢のシンボル。莫大な予算がかかったことと思いますが、これによって「金沢ブランド」が高まり、多くの観光客が来てくれることを考えると、十分元は取れているのだと思います。

 

また、最近までこの建築の存在を知らなかったのですが、実は2005年3月にお披露目されていたそうです。北陸新幹線開業に合わせてではなく、先立って街づくりを実行していたからこそ、金沢には多くの観光客が来るのだと思います。目先のことにとらわれず、「金沢ブランド」向上のために先行投資して、魅力ある都市を築き上げていく石川県・金沢市は、本当にブランド経営がうまいなと感心するばかりです。

 

 

金沢21世紀美術館② 人々の様子がフォーカスされた新時代の建築だ!

設計:SANAA 

訪問日:2018年8月8日(水)


昨日も来た21美に再訪し、21美の魅力の要因に迫ります。兼六園と21美は似ていると、兼六園の記事で書きましたが、今回も兼六園との共通点に触れることになります。


今日はチケットを購入せず、無料の「交流ゾーン」と周囲の芝生広場をじっくり見学しました。
昨日と同様、多くの人々で賑わっていましたが、注目すべきはその人々の幅広さ。日本人も外国人も、男性も女性も、そして、年配の方から子供まで、本当に老若男女いろんな人が来ています。特に、ちびっこや家族連れ、女性客の多さは、美術館の中でずば抜けていると思います。


さて、今日こそはこの雰囲気を伝わる写真を撮るぞと意気込み、何枚かパシャリ。うーん、かっこいいんだけど、やっぱり何か違う。いろいろ設定を悩んで、試しに低速シャッターで人々の動きをぶらしてみると。おっ!それっぽい! 

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あまりに透明で均一な空間を、我々は認識できず、代わりに人々が行き交うその様子を認識していたのだと、ここで気付きました。つまり、色も形も全てを削ぎ落とされた空間では、その空間自体の形や色を見ているようで、全く見ていなかった訳です。当たり前と言えば当たり前ですね。確かに、写真でもピントを合わせる場所がはっきりせず、AFも迷っていました。

 

こんな空間体験は初めてで、今までにない全く新しい空間をSANAAは作り上げてしまったんだと実感しました。21美は、まさに21世紀を、新時代を背負う建築なんですね。

 

また、「鈴木大拙館」は「対比」「静寂」がキーワードでしたが、21美は透明に「統一」されていて、人々の「動」きに注目した建築。つまり、両者は全く対照的な建築ということになります。


話がそれましたが、人々が行き交う様子が顕になっていること、つまり、21美が「様子を楽しむ空間」であること、これが楽しさの理由なのだと思います。そして、私はこの楽しさを「街歩き」的だと表現したいと思います。ほら、「街歩き」が好きだという人は結構いますが、実際、街のディティールなどを観察している人はごくわずかで、結局楽しみにしているのは、街の雰囲気だったり、綺麗なお姉さんやダンディなおじさまとすれちがってときめくことだったりという点で一緒ですよね。だから、21美は、美術に精通していなくても楽しめて、幅広い人々が集まってくるのだと理解しました。


エントランス。奥に見えるのが「スイミング・プール」。やっぱり子どもが多いです。21美には託児所があり、子供が来館できる環境が整っています。

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交流ゾーンのベンチ。床から天井までのガラス壁は、屋外との境界を消し、開放感あふれる空間をつくるのに成功しています。屋外の芝生広場はまるで公園のようですが、交流ゾーンもその一部に見えてきます。交流ゾーンは、展示会ゾーンの周りをぐるっと囲うように配置されており、ぐるぐるとずっと歩き続けることが可能。そして、回遊していると、ライブラリーやショップ、レストラン、ラウンジなどいろんなものが次々に現れる。これも「街歩き」的な楽しさですね。

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地下一階、休憩スペースにあるフラワーチェアー。

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楽しげな周囲の芝生広場。道路に対して微妙にレベルを下げているので、自然と人々は美術館に引き込まれます。

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「企画展も見ていないし、お金も払ってない。ただ来ただけ、でもこんなに楽しい!」やっぱり21美はすごいな、とただただ感動するばかりでした。

 

『まちに開かれた公園のような美術館』が設計のコンセプトですが、21美ほどコンセプトを有言実行している建築を私は知りませんし、老若男女すべての人に開かれていて、理想的な公共建築として完全に成功を収めていると言えます。全く新しい空間で、全く新しい感覚を味わうことができ、大変勉強になった上、21美の魅力の本質に迫ることができ、価値ある再訪問となりました。

石川県立伝統産業工芸館 上質な空間で工芸品を眺め、現代アートを思う

設計: 谷口吉郎

訪問日:2018年8月8日(水)

 

兼六園を歩き回って、桂坂口とは反対側の小立野口までやってくると、モダンな建物が見えてきました。「石川県立伝統産業工芸館(旧石川県立美術館)」です。設計は、モダニズムを語る上での重要人物・谷口吉郎谷口吉生の父であります。金沢市内の九谷焼の窯元生まれらしく、当館設計者として納得の人物ですね。

 

まず、外観は、白を基調とした、おとなしめの外観。兼六園に隣接しているので、建築を主張させるのは避けたのだと思われます。

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やや深めの庇や白のタイル壁、奥の窓の格子は、どことなく障子や日本建築を連想させます。日本の伝統建築の要素を用いつつ、周囲になじむモダニズム建築という、谷口吉郎の特徴がよく表れています。ピロティもこの建築の特徴です。

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エントランス。夏休みということもあって、子供向けのイベントが開催中でした。左奥は中庭。床の石材の仕上げが、屋外との連続性を感じさせます。

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前田家の家紋「剣梅輪内」のデザインの照明。

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開放的なエントランスホールの吹き抜けと階段。

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寸法は、蹴上15㎝、踏幅30㎝でした。

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2階平面図。L字型の建物で中庭があります。

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第一展示室。黒を基調に落ち着いた空間で、谷口吉生の美術館に通じるものを感じますね。じっくり展示品と向き合うことができます。展示品は、九谷焼加賀友禅、輪島塗、山中漆器、金沢箔などなど、どれも息をのむ美しさがありました。特に輪島塗のお皿は初めて目の前で見ましたが感動しましたね。こうしてみると、石川は本当に伝統工芸が多く、だからこそ美術館など文化施設が数多く建てられ、文化都市としての地位を築いているように思います。

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第三展示室。イベントに合わせ、ゆかいな展示室に。美術を高尚なものと考える人からは批判されそうですが、これで子供が来てくれるなら良いんじゃないかと思います。全体的に、金沢は美術を身近なものとして捉え、子供に触れてほしいんだと感じます。金沢の未来を見据えた素晴らしい考えだと思いますね。

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ハイサイドライトに明るい木目の壁面。開放感を感じます。

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順路の最後、一階に降りる階段に展示されている「兼六園」の扁額。迫力がありました。

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1959年竣工と古いので、目新しさはないですが、偉大な地元建築家による味わい深い建築で、来てよかったですね。

 

ところで、工芸品を眺めることにより、現代アートの捉え方に対して思いついたことがありました。「現代アートは訳が分からない。おもしろくない。」という印象が先走りしているように思われる今日ですが、工芸品を見て、「なぜこの模様になるのか理解できない。おもしろくない。」という人はおらず、皆「きれい~!」と喜んでいたのです。つまり、意味や工法だったりを考えず、ただただその美しさに感動していたわけです。現代アートだってそれでいいではないでしょうか?

先人や職人の知恵・技が、我々一般人には到底解せぬ離れ業であるのと同様、偉大なアーティストの頭の中なんて分かりっこないのですから。

「何故か分からないけど、この作品は好き!」「これはめっちゃきれいやな~」

まずはそうやって現代アートに触れて楽しんでみよう!と考え、少し気が楽になった見学でした。

 

続いては、もう一度兼六園内を抜け、21美に向かいます。

兼六園 金沢の特徴??「街歩き的楽しさ」を発見する

 

訪問日:2018年8月8日(水)


この日は朝一番から、日本三名園の一つ、兼六園へ。コインパーキングに車を停め、駅からバスで来たのですが、またもコインパーキングにたどり着くまで、ぐにゃぐにゃの道、右折禁止や一方通行、さらには渋滞にも阻まれ、苦戦。やっぱり金沢の運転は難しいです。


さて、先に兼六園の感想を要約しとくと、21美との共通点を発見し、金沢らしさが少しずつ見えてきたなという感じ。具体的には、「方向」「様子を楽しむ空間」について。


兼六園下・金沢城のバス停から坂を登って、桂坂口から入園。兼六園には、この他にも6つの入場口があり、あらゆる方位から入場できます。ここで思い出したのが、昨日訪れた21世紀美術館。21美も、ぐるっと周囲を散策することができ、東西南北4方向に開かれているのが特徴。似ています。


また、金沢の道路と同じく、兼六園内の道もぐにゃぐにゃ。入口の方位が定まらないことも相まって、今どっちを向いているのか非常に分かりづらい。


以上のことから、複雑で方向意識の薄い街の構造が、金沢らしさの一つなのかもしれないと思いました。では、なぜこのような街構造になったか。兼六園茶屋町などが残る文化都市・金沢は元々城下町なのですが、その防御のための入り組んだ街構造までもが、今日に引き継がれているのだろうと思います。そうだとすると、道が狭くて運転しにくいのも納得ですね。


そして、この複雑な街構造が、より多くの街区・曲がり角を生み、人々の流れ・動きを作り出しているのではないでしょうか。だから、歩行者は楽しく街歩きができ、それが金沢の魅力となっている訳です。金沢が観光地として人気を誇る理由の一端が分かった気がしました。


金沢のシンボル「徽軫灯籠」
この時はまだ空いていてゆったり散策できたのですが、しばらくすると海外の団体客が増えてきました。美術館開館前の朝に来てしまうのが正解です。ちなみに、手前の橋は虹橋、奥の建物は内橋亭というそうです。

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見事な枝ぶりの唐崎松。冬になると、雪吊りが行われます。

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栄螺山より霞ヶ池を見渡す。こうしてみると、兼六園が高台にあることがわかると思いますが、どうやってこの大量の水を引いてきているのでしょうか。実はかなり離れた上流から地下水道を通し、サイフォン効果を用いているそうです。これは驚き。高台にある分、見晴らしがよく、散策してて気持ちよかったですね。

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2000年再建のお茶屋「時雨亭」。数寄屋造りの建物で、中の茶室でお食事している方がいます。

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兼六園について気付いたこと2つ目、「様子を楽しむ空間」。金沢は京都に比べて、カメラマンは少なくて、カップルや女子旅、家族旅行の人々が多く、その理由について考えたのですが、兼六園の風景は、どちらかというと風景それ自体を楽しむというよりも、人が入り込む隙があって、人々がそこで活動している様子を見て楽しんでいるんだとと感じました。実際、徽軫灯籠や時雨亭の写真は、モデルがいるほうが絵になると思います。

 

反対に、京都のお寺などは、風景それ自体で完成された風景。だから、京都には多くのカメラマンが押し寄せ、一方、人物を美しく見せてくれる最高の背景である金沢には、カップルや女子旅グループが集まるのだと理解できました。

 

なんてことを考えながら、歩き回っていると、あっという間に1時間が経過。兼六園、予想以上に広いです。しかし、上に書いたように、回遊していて楽しい空間ですし、他にも夕顔亭や花見橋など、見どころが点在しているので、全然疲れないです。やっぱり、日本三名園は伊達じゃない、観光地として完全に成功しているなと感じたのでした。

 

 

 

金沢21世紀美術館① とにかく楽しい!でもなんで?

設計: SANAA

訪問日:2018年8月7日(火)

 

 

鈴木大拙館から歩くことわずか10分で、金沢21世紀美術館に到着。このときはまだ、21美が鈴木大拙館とは対照的であることに気付いていなかったのですが、全く方向性の違う2つの素晴らしい美術館がこれだけ近くにあることに感動しましたね。恐るべし、金沢!(さらに後日、兼六園や石川県立美術館も近辺にまとまっていることを知り、戦慄することになります。)

 

そもそもなぜ金沢に行くことにしたか、その一番の理由が21美。建築を勉強していく上で、21美は避けては通れない作品。つまり、必修科目ならぬ必見建築なのであります。それくらい21美は、美術館・公共建築の在り方を変えた、日本を、いや世界を代表する美術館なのです。にもかかわらず、恥ずかしながらまだ行けてなかったんですね。だから、今回の行き先が金沢となった訳です。

 

さすが世界でも有名な美術館だけあって海外からのお客さんも多く、平日の展示終了2時間前にもかかわらず、チケットカウンターは大混雑。21美の集客力は大したもんです。30分ほど並んでやっと購入。次回からは前売り券を購入しときたいと思います。

 

さて、メインの展示ですが、普通の美術館と異なって、21美には順路がなく、展示室それぞれが独立していて、鑑賞者は自由に歩いて好きな展示室にいくことができます。これがなんでかわからないけど、すごく楽しい。人と活気にあふれている。素晴らしい空間・建築だなと素直に感じましたね。

 

あ、順路がないと書きましたし、このことに対する批判もしばしば耳にするんですが、21美は展示室が14個で、今回は2つの企画展が開催されており、一つの企画展あたり7個しか展示室がないので、経路の選択肢が多すぎるということはなく、迷うほどではありません。美術館全体を上手に、取り外し可能なガラス壁で区切っているんですね。かつて「ポンピドゥーセンター」のような、あらゆる展示が実施できるよう仮設壁で展示室をわけるスタイルが流行し、結局このスタイルは仮設壁の安ぽっさが問題で廃れていった訳ですが、21美はちゃんとした展示部屋と可変なスタイルのいいとこどりをしていると言えますね。

 

展示室自体は大小さまざまでしたが、基本的にはホワイトキューブでこれといった印象はなし。しかし、これは平凡とかいう意味ではなくて、トップライトで自然光を取り入れたりしているにもかかわらず、違和感なく美術品に集中できるということで、SANAAの設計力の高さを実感します。ただし、混雑していて、子連れも多いことから、作品とじっくり対峙して鑑賞できる感じではありません。21美は、街に開かれた、もっと気軽に美術鑑賞を楽しもうよというスタンスの美術館なのだと思いました。何度も言いますが、とにかく楽しいんです!

 

SANAA設計のラビットチェア。かわいい。

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展示を見終わって外に出てくると、夕焼けの時間でした。写真は、恒久展示の「雲を測る男」。恒久展示はこの他にも「スイミング・プール」などがあり、どれもユーモアに溢れていたり、体験型だったりと楽しいものでしたね。

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展示会ゾーンの周囲に設けられた交流ゾーンには、ベンチやロッカー、アートライブラリーやミュージアムショップがあり、18:00の展示終了以後も22:00まで開放されています。(ライブラリーやショップはそれより早く営業終了) 21美は美術館全体が、とにかく透明で均質な抽象的空間にまとまっています。しかし、写真にすると、そのかっこよさ・楽しさが伝わらない。(建築のデザインが素晴らしいので、適当に撮ってもかっこいいですが、実際はもっとかっこいいんです。) 21美の写真撮影は、後日リベンジすることにします。

architecturetrip.hatenablog.com

 

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夜になると、より一層建築の抽象性が強調されます。

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さて、夜ご飯は金沢で大人気のB級グルメの「第7ギョーザ」へ。行くとびっくり、このお店単独なのに、3階建ての大きな建物、100台の駐車場。それなのに駐車場はほぼいっぱい、店内には順番待ちの人々。どんだけ人気やねん。しかし、一階はカウンター席のみで回転は早く、そこまで待つことなく餃子にありつくことができました。(食べている後ろでお客さんが並んでいるので、冷ややかな視線が飛んできそうで長居できないんですよね。これもひとつの戦略?) 名物らしいホワイト餃子を注文。小籠包のような珍しい形と、ぱりっとした厚い皮が特徴で、癖になる味。あっという間に10個とご飯、お吸い物をたいらげ、完食。その後のレジで驚いたのが、一応店員がいて接客してくれるのですが、お金はお客が機械に投入、おつりも自動でと、システマティックな回転率維持がとても印象的なお店でした。

 

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 その後はスーパー銭湯、ネカフェで一日終了。翌日も金沢建築巡りが続きます。