鈴木大拙館 静寂な禅の空間・対比表現の上手さ
設計:谷口吉生
訪問日:2018年8月7日(火)
金沢建築巡りでまずはじめに来たのが、「鈴木大拙館」。仏教哲学者・鈴木大拙の禅の教えに触れるためのミュージアムです。美術館の巨匠として知られ、以前行ってみて良かった「京都国立博物館 平成知新館」を設計した谷口吉生の作品と言うことで楽しみにしていました。2011年開館とまだ新しいこともあってか、私のほかにも明らかに建築方面であろう方が多く、ちょっとした建築の聖地となっていました。
この建築を語るにあたって、「対比」「静寂」「禅」がキーワードかと思います。
まず外観は、本多の森を借景とし、抑制のきいたデザイン。シャープで硬質な感じはいかにも谷口吉生ですね。ルーバーの切れ目が入口なのですが、エントランスの奥にある庭まで見通しが効くようになっていました。
長くて暗い内部回廊を進みます。展示空間へ向け、心を整える場所です。途中右側、三角形に突き出た開口部からは、庭のクスノキを眺めることができます。この建築は、禅の教えである「まる、さんかく、しかく」を意識しているようで、たしかにプランを考えると、しかくの建物、さんかく形の展望スペース、まるいクスノキとなっています。
平面図(公式サイトより)
内部回廊を抜け展示空間へ。この施設は「展示空間」「学習空間」「思想空間」の3つから成り立ち、要するに、知って、学んで、考えろということでしょう。薄暗い展示空間で特筆すべきは、キャプションがないことで、感じるままを重視する禅の教えに基づいた空間となっています。学習空間は露地の庭を眺めることができ、薄暗いものの心地よい書斎のような空間になっており、実際に本を読んでいる方がおられました。
続いて、白を基調とした外部回廊へ。内部回廊の裏側にあり、位置・明るさともに、両者は対照的。この辺の対比の上手さはさすが谷口吉生です。彼の作品でよく見られる浅い水盤、その上に浮かんでいるように見える立方体が思想空間。深い軒が印象的です。
思想空間内部。円形のトップライトがあります。中は畳敷の椅子が並ぶのみの厳粛かつ静寂な空間で、ただそこに座り、水盤の音や森の風の音を聞きながら、思索にふけることができます。
非常にコンパクトで、展示をみるだけなら30分で十分であろう施設でしたが、思想空間・水鏡の庭のあまりの心地よさに気づけば1時間以上過ぎていました。最後に、外側から水鏡の庭を撮影。散策路の一部?となっており、以下の撮影場所はチケット不要です。
緊張感ある空間の中、皆思い思いの場所で、思い思いに立ち止まり、思いにふけています。
「まる、さんかく、しかく」がよくわかる一枚。
外部回廊や思想空間はしかく。波紋がまる。クスノキを立面で捉えるとさんかくですね。軒の角がさんかくと考えてもいいかもしれません。この波紋は3分おきに発生し、3分の理由は、波紋発生後、水盤の波が消え、水鏡が完成するまでの時間が3分だからだそうです。静寂な思想空間や庭に波音が響く様は、まさにししおどしと同じだと感じました。